1-14. 現実世界 無双模倣

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イモータルズの斉射に引き寄せられるように2機の不知火しらぬい――千木良世ちぎらせ朱土岐あかときが速度を上げる。
御剣みつるぎ伊隅いすみの駆る機体を追い抜き、部隊の先頭へ――その先にはBETA群――地上はまだ見えない。
国防隊の打撃力は期待できない。
彼らはまだ学んでいる最中――だから自分たちでやるしかないのだ。
「頼みますよ、千木良世ちぎらせさん」
前席に発破をかける。
戦闘が始まれば自分にできることは殆どなくなり、千木良世ちぎらせに生命を預けることになる。
レーダーウィンドウに表示された無数の赤い光点は互いに重なり合っていて、掻い潜って突破することはできないことを告げている。
『――余計な荷物を背負っていくんだ、油断すんじゃねぇぞ』
朱土岐あかときが左に機を寄せた――朱土岐あかときも緊張しているのだと思った。
『――あたしらの先導で5キロは進みたい。そんだけ稼げばあとは本隊が何とかするだろ』
2機で5キロの啓開――ふむと千木良世ちぎらせが頷いた。
「やるしかないようだな。――管理官、集中する。しばらく面白い冗句を聞かせてあげられなくなるが許して欲しい」
「え!? ――あ、はい……」
千木良世ちぎらせに冗談を期待したことはなかったが、否定するのもアレなので流すことにした。
『――何をほざいてんだよ、バカたれが! 恰好つけてんじゃねぇぞ! 真面目にやれ、真面目に! この馬鹿コンビがよぉ!!』
瞬間、一緒にされたことを抗議しようと思ったが諦める――どうせ更に言い重ねられるだけだ。
「恰好つけるか……。そうだな、恰好つけてみよう。うん」
差し込まれた悪口を気にもせず、千木良世ちぎらせが言った。
千木良世ちぎらせはやる気になっている――彼女が覚悟を決めたというのであれば、最後までそれに付き合おうと思った。
「……全力でお願いします。千木良世ちぎらせさんの恰好いいところを見せてください」
表情は見えないが、なぜか彼女が笑っているという確信があった。
「――了解だ、管理官」
千木良世ちぎらせの指と視線が慌ただしく動く――跳躍ジャンプユニットが高音を発する。
「セッティングを変えた。機体を振り回す。――実は以前からやってみたいことがあったのだ」
「やってみたいこと?」
「母上が隠していたプラチナデータをこっそり見たことがある。凄まじい戦闘機動だった。真似したいと思って内緒で練習を続けていたのだ。偉いだろ」
プラチナデータ――何かの戦闘記録動画でも見たというのだろうか?
「私があれに届くかどうか……。やってみる」
覚悟していたはずなのに嫌な予感がふつふつと沸いてくる。
「スノウホワイト、国防隊の誘導を頼む。――私は先行する」
『――あん!? てめぇ、まさか単機駆けでもするつもりか!?』
単機でBETA群に飛び込む――朱土岐あかときの予感は多分当たっていると思った。
「機体が壊れるだけだから絶対にやるなと母上に言われていたが、気にしてる場合ではあるまい!」
嘘でしょ――管制ユニット内のアシストグリップを強く握る。
『――バカ! おまえ、マジか!? マジで単機突撃するつもりかよ!?』
「誰かが道を切り開かねばならない。――ドーンパープルより全機へ告げる。私から500m以内には入ってくるなよ!」
体温が上がる。
「――千木良世ちぎらせ紫宵よい、まかり通る! 死にたくなくば道を譲れ!」
刹那――強力なGの発生で体がシートに押し付けられた。
「ぐぇ……」
圧し潰された肺から漏れ出た空気が奇妙な声となった。
衝撃――地面が迫る――内臓が冷やり――髪が逆立つ。
大気を切り裂く鞭のような音――ぱっと目の前に赤黒い霧が沸いた。
何が起きている――べったりとした肌感覚と悲鳴を上げる耳石。
直観で状況を理解――ロケットモーターで加速している――内臓に冷感。
上昇しながら砲撃してるのか――冷や汗が目に染みる。
衝撃――衝突前の横回転Gからバレルロールして天井を蹴ったと判断。
そして反動で急下降しながら突撃デストロイヤー級に刺突――その攻撃で着陸の衝撃を吸収させたのだと気づく。
嘘だろ――脳の回転が追いつかない。
こんなの無茶だ、機体が耐えられるはずがない――千木良世ちぎらせを制止しようと思ったが、高G機動のため声が出せない。
左に旋回して回し蹴り――そのまま36mm砲を回転斉射――BETA集団に大穴を開けた。
四方八方から脳みそをシェイクされる感覚が続く。
朱土岐あかときが何か言っているようだが聞き取れない。
だが、確実に『ゲート』へ向けて進んでいる――それだけは間違えていないはずだ。
単機で吶喊したのはこれが理由か――味方が近くにいてはこれほど雑に戦えない。
乱暴に――だが確実に橋頭保を確保しつつ前進を続ける。
千木良世ちぎらせがBETA群に刻んだ楔を後続が拡大してくれれば――地上まで行けるのではないだろうか。
狂笑――千木良世ちぎらせの笑い声が聞こえてきた。
「楽しいなぁ、管理官!! マッハでストレス解消だ!」
120mm砲弾を発射した反動を利用して旋回――旋回機動に合わせて横薙ぎの一閃――BETAの体液が地下茎スタブの壁面を染める。
凄い――雑に見えた攻撃のすべてが連動していて停滞がない。
いったいどこでこんな機動攻撃を学んだのだ――三半規管が崩壊――視界が涙で歪む――猛烈な吐き気。
BETA群の薄い場所に着地して周囲を制圧――機体周辺のBETAが対応する気配を見せた時には次の地点に。
狭い空間に投じられたボールのように上下左右に動いていく。
こんなのでたらめだ――義経の八艘飛びって多分こんな感じだったのでは?
誰にも理解されない、誰も見たことのない戦い――だが、確実にこの狭い空間を千木良世ちぎらせは支配している。
大きく揺れる視界の中で地図データを読み、地上までの距離を確かめる――残り4キロ。
これなら――これなら地上まで行けるかもしれない。
猛烈な吐き気に襲われながらそう思った。

伊隅 みちる

データリンクで全機の残弾を表示する。
想像どおりの厳しい展開を再認識し、小さく舌打ちする。
主力による地下茎スタブ突破は上手くいかなかった。
物量の見積もりは間違えていなかったはずだが、地下茎スタブの狭さが誤算だった。
狭い戦場のため、角度を付けた砲撃ができず、いたずらに砲弾を消耗した。
アルファ・ユニット全体でも120mm砲弾は数発のみ。
36mm砲弾は各機が弾倉ひとつのレベルまで消費していた。
ここから先は近接格闘だ――とはいえ長刀の数は少なく、格闘戦用短刀での戦闘になる。
短い得物で要撃グラップラー級、突撃デストロイヤー級の相手は辛い――リーチの差を埋めるには技術が必要だ。
『――大尉……』
カメリアクレイン/さかき千鶴ちづるの呟き。
「――いまは大尉ではない。気を抜くな」
兵装の受け渡しプランを練りながら、昔の呼称を使ったさかきの不注意を軽く叱責。
『――あの動き……ドーンパープルの機動は……』
促されて視線を上げた。
そして――信じられないものを見た。
国防隊戦術機たちの背中――その向こうで1機の不知火しらぬいが跳ね飛んでいる。
右主腕に突撃砲、左主腕に短刀、背部兵装担架の突撃砲は起立稼働――全方位のBETAを敵にしての高速機動戦。
「…………」
BETAの群れが血煙で包まれている。
地下茎スタブの低い天井からBETAの体液がボタボタと垂れ落ちている。
返り血で赤黒く染まった不知火しらぬい――その凄惨な戦闘がかつての記憶を惹起した。
「――白銀……」
ドーンパープルの動きは、あの日あの場所で見た男の動きに酷似していた。

東雲 祉乃

『――攻撃は中型大型に攻撃を絞れ! ドーンパープルには当てんな! クソが! バカみたいに飛び跳ねやがって!!』
先導するスノウホワイトの叫び。
『――あいつの動きは読めない! それでも当てるな!!』
ややもすれば恐怖心に負ける自分たち国防隊を慮ってのこと――下に観られていることは理解できた。
だから仲間を動揺させないように声を掛ける。
「最小戦闘単位を維持! 戦車タンク級の取り付きを警戒! 劣化ウラン弾で敵との距離を作れ!」
乱戦の中で戦車タンク級に取り付かれる恐怖は横浜撤退戦で学んでいた。
戦車タンク級にしがみつかれ、バランスを崩して倒される仲間を幾度も目撃した。
あの時、イモータルズの山吹色の戦術機が助けてくれなければ自分も同じ目に遭っていただろう。
だから自分は学ばなければならない――彼女たちと同じレベルで戦えるようになるために。
最前線を単機で突破していく不知火しらぬい――ドーンパープルと呼ばれた女性が操縦している。
その機動から目が離せない。
もう3分以上、単機突破を続けている。
ゴム毬のように壁面、天井、地上を蹴り、流れるようにBETAを撃破していく。
あの機動は自分の戦術機には無理だ――あそこまでの反応速度は撃震げきしんにはない。
強引にして華麗。
流麗にして鋭敏。
『――あぁ……』
感嘆の声を上げたのは中隊長だったと思う。
国防隊の誰もが視線を奪われていく。
あれは究極で至高の戦闘マシーンだ。
天下無双――この世に二つとして並ぶ者なし。
あれに自分は追いつけるのだろうか――操縦桿を握りしめた。
追いつかねばならない、絶対に――。
なぜなら自分は国防隊なのだから――。
そう思った瞬間、ドーンパープルの機体がBETAの群れの中で視界から消えた。

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衝撃で視界が揺れた。
吸収しきれない震動が全身を襲った。
「すまん、ミスった!」
視界に機体ステータスのウィンドウが浮かぶ。
機体の全身モデルがオレンジ色で染められている――なかでも左主脚は真っ赤になっていた。
千木良世ちぎらせさん!!」
「わかってる……!!」
飛び上がる寸前に一撃を貰ったらしい――転倒して機体が仰向けになっている――天井の淡い光でそう判断する。
警告音――複数の戦車タンク級が近づいてくる。
間に合わない――機体がバリバリと音を立てて戦車タンク級に喰われるイメージが浮かんだ。
終わるのか、こんな所で――思考が止まりかけた。
「く――!」
突如、背中に突き上げを感じる――目の前に地下茎スタブの天井が迫る。
不知火しらぬいを立ち上がらせる時間はなかった――だから仰向けのまま、跳躍ジャンプユニットを吹かして飛んだ。
不知火しらぬいの両主腕で天井激突の衝撃を殺す――驚愕。
再び落下――右主脚を使って着地――戦車タンク級の飛びつきの回避に成功。
「危なかったぁぁぁ!」
千木良世ちぎらせが笑っている。
「ヤバいヤバい! 死んでた、もう一個ミスってたら死んでた!」
正気か、この人?――この状況で何で笑っていられる。
『――笑ってんじゃねぇぞ、バカ!!』
朱土岐あかときの怒声――びくっとした自分とは違い、千木良世ちぎらせさんは気にもしていない。
「笑うしかないだろ、これは!」
噴射地表面滑走サーフェイシング――巧みにBETAを躱す千木良世ちぎらせ
『――機体ダメージは!? まともに動くのかよ!!』
「動かして確認する!!」
けたたましい警告音。
「うーむ、左の脚は膝から下が動かないな。曲がった装甲が関節に噛みついてるようだ」
主脚が故障――機動力の低下――地下茎スタブから脱出できるのか。
旋回Gを感じてひゅっと息を飲む――千木良世ちぎらせが左主脚で要撃グラップラー級に回し蹴りを入れていた。
「お! 少しだけ膝の可動域が上がった!」
蹴った衝撃が噛んでいた装甲を破壊したのだろうか――依然、足首は動かないものの、膝の状態はわずかに回復したようだ。
ひょっとしたら、この人、本当にバカなのではないか――強引すぎる修理――直った直ったと笑い続ける千木良世ちぎらせに恐怖する。
「見ろ、管理官! 『ゲート』だ、出口だ! あれがパリの灯だ!」
BETA群の遠くに強烈な光点――地下茎スタブの淡い輝きではない。
「オー・ソレ・ミィオ~! このまま突破する!」
『――引っ込め、バカ野郎!』
朱土岐あかとき――怒声。
『――おまえの機体は限界だ! 頭おかしくなってんぞ、バカ野郎!』
味方機を示す光点が赤い敵性光点を切り裂いて近づいてくる。
『――乱射魔だか戦闘狂だか知らねぇが後ろ下がって頭を冷やせ!』
「私の方が上手だぞ? 絶好調だしな。それにスノウホワイトに単機駆けは無理じゃないか?」
『――舐めんな! おまえにできてあたしにできないはない!』
「信じられませーん、だ!」
物凄くレベルの低い口喧嘩に唖然。
『――もうすぐ本隊が上がってくる! それまで任せろ!』
近接マップを視線で拡大し、国防隊とイモータルズの位置を確認。
データリンクでステータスを確認――兵装の受け渡し中――伊隅いすみたちが上がってくるまでまだ数分は必要だと判断。
思考――上がってきても、どれだけの戦力になるだろうか――残弾は少なく近接戦闘用の短刀を両主腕に装備している機体が多い。
「任せない! このままやる! 突破するぞぉぉぉ!!」
『――いい加減にしろ! このクソ馬鹿女! ハイになってんじゃねぇ!』
「何だと!? 私はなかなかのお利口さんだぞ! 一緒にやろう、スノウホワイト!」
ああ、そうか――暗記した衛士データを思い出す。
『――少しはあたしの言うことを聞け! おまえの機体のヤバさは外から見ればわかる! その機体はもう戦力としてカウントできねぇんだよ!』
朱土岐あかときさんは中衛から後衛を務めることが多い。
それに比べると千木良世ちぎらせさんはオールラウンダー――どの位置でもそれなりに対応できる。
「でも動くし! 一緒にやればいいじゃん! スノウホワイトだけじゃ無理だし!」
朱土岐あかときさんに単機で戦わせるより、損傷しているとはいえ協力した方がマシだと千木良世ちぎらせさんは判断したのだろう。
とはいえ、言い方――本当に相性が悪い。
「スノウホワイト、2機でやりましょう、2機で!」
だから割り込んだ。
『――管理官! てめぇまで頭イカれたのか!?』
「もともとイカれてますよ! あなたもそう言ってましたよね!?」
朱土岐あかとき――図星を刺されて黙る。
「口論してる場合じゃないでしょ。ドーンパープルはまだ戦える。自分が保証します」
それに――。
「いきますよ! 出口はすぐそこです!」
朱土岐あかとき千木良世ちぎらせの左に機を寄せる。
千木良世ちぎらせ機の左の主脚は満足に使えない――そのカバーだ。
いろいろと一言多いが、衛士としては真っ当――褒めようと思ったが、称賛を口にすればまたひねくれた返答があるだろう。
『――殺るのは最低限でいい! 少しは国防隊にも仕事をさせんぞ!』
「――いいのか、管理官?」
千木良世ちぎらせの問いかけ――深く頷く。
「可能な限り全力で! 零れた分は目を瞑るしかないようです――!」
本当はそんなことは言いたくない。
救える者はすべて救いたい。
だが、それを朱土岐あかときさんと千木良世ちぎらせさんに要求できない。
余裕など一切ないのだ。
「いいんだな? ヴァルキリー1は育てるつもりのようだったが」
「いいんです。――何もかも完璧にやるのは無理ですから」
自分の出した指示だ。
自分に責任がある。
この判断を咎められて処断されるのであれば自分ひとりでいい。
それが何もできないくせに命令を下す立場に据え付けられた人間の責任だと思った。

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