1-13. 現実世界 地上へ
地下茎という閉ざされた空間ゆえの閉塞感――かつては美しいとさえ感じていた壁面の淡い光も今では不気味に想えてしまう。
気分次第でこんなにも見え方が変わるものなのかと東雲祉乃は思った。
自分たちの後方――関東側から迫りくるBETA群との距離が詰まってくる。
射程圏内のBETAに対して背中を晒したままでいるのは初めてかもしれない――強化装備で体温調節はされているはずだが悪寒を感じる。
国防隊とイモータルズは地上側へ向けてずらりと砲口を並べていた。
『――砲撃用意』
ヴァルキリー1の声に合わせてトリガーに指を添わせる――地上側から迫ってきたBETA群が射程圏内に入ってきた。
『――撃てッ!』
号令――指が痛くなるほど強くトリガーを押し込む。
閃光、噴煙、震動――劣化ウラン弾が装甲殻を削る高い金属音。
BETAの筋肉が収縮する音がまるで悲鳴のように聞こえた。
ほとんど同時にイモータルズの不知火の跳躍ユニットの出力が上がる。
『――行け!!』
『――了ッ!!』
満足な効果判定も行われぬまま、イモータルズの突撃前衛たちが飛び出していく。
戦術機の操縦技術の差が顕著になるのは機動砲撃戦であると東雲は思っている。
砲撃の反動、斬撃の反動――BETAの攻撃を躱すだけでも困難な中、それらの挙動を制御しなくてはならない。
戦闘機動中に機体バランスを崩してしまえば転倒は必至――倒れた戦術機がどうなるのかは誰にでも想像できる。
きちんと録画されているか再確認をする。
彼らの戦闘動画は国防隊の教材となる。
一瞬たりとも撮り逃す気はなかった。
高速移動しながらの長刀一閃――切り裂かれた突撃級から赤黒い体液が噴き出す。
急停止して突撃砲を押し付けて射撃――要撃級を貫通した劣化ウラン弾が戦車級を跳ね飛ばしていく。
あまりにも簡単にBETA群を破壊していく姿に国防隊から感嘆の声が漏れた。
『――パペットマスターより0901。隊を前進させてください』
最後尾に配置されたパペットマスターからの通信に中隊長が応じ、前進が号令された。
イモータルズが半殺しにした要撃級に長刀で止めを刺す――要撃級は奇妙な音を立てて沈黙した。
結局、自分にできるのは後始末だけか――改めて技量の差を理解させられる。
イモータルズの戦術機たちが狭い戦場を苦にせずに進路を切り開いていく。
その姿に感動しながらも卑屈になっていく自分――どうすれば、この差を埋められるのだろうか。
『――速度を上げてください。イモータルズから離れないように』
再びパペットマスターの声――関東側のBETA群との距離が更に縮まっている。
速度を上げてイモータルズの直後につく――地上まではまだ距離がある。
戦闘しながらの移動だ――地下茎脱出までどのくらい時間が掛かるか計算できない。
地上付近のすべてのセンサー反応がないのが気掛かりだった。
『――流れ弾を警戒しろ。味方にやられては面白くない』
中隊長――少し落ち着きを取り戻したようだ。
フォーメーション修正の指示が中隊長から下された――追加装甲と呼ばれる盾を保持した機体が国防隊の先頭に回る。
イモータルズからすれば嫌みにも見えるかもしれないと東雲は思った。
守られている立場でありながら、信用している姿を見せないのは礼を失している気がする。
それでもイモータルズの衛士たちは気負うこともなく、冷静にBETAを掃討していく。
狭い空間のため誤射の可能性が高く、援護することはできない――ただ観ることだけ。
仕方がないのだ。
イモータルズと一定の距離を保ちながら追いかけ続ける。
地上まではまだ10kmはあるだろう――正確な距離はわからなくなっていた。
後方のBETA群の距離を再確認――更に距離が詰まってきている。
反転して攻撃したくなる衝動を理性で押さえつける――目的は地上への脱出であって殲滅ではない。
砲弾の一発ですら無駄にできないのだ。
イモータルズの戦闘を記憶に焼き付けるべく、再び前方を見据える。
見ろ――見て学べ。
『――凄い……』
国防隊の誰かの呟き――おそらく、あの日、初めて自分がイモータルズの闘いを目撃した時と同じように感じているのだろう。
自分たちがあれくらいできるようになれば――。
電子音による警告。
後方のBETA群の接近――時間的距離にして100秒を切っている。
戦闘しながら脱出路を啓開しているため、後方のBETA群より速度を出せていないのだ。
このままでは挟撃される。
『――パペットマスターよりヴァルキリー1! 間もなく後方BETA群に追いつかれる』
『――カメリアクレインよりヴァルキリー1! こっちもそろそろ限界です! 弾倉交換のタイミングが――!』
ほとんど同時に前後からの報告。
先行しているイモータルズたちの突撃砲の砲身が赤熱しているのが見えた。
熱に依る砲身変形――狙撃精度の悪化。
自然発火による予期せぬ砲弾発射――マニュアルに記載されていた要注意事項を思い出す。
駄目だ、イモータルズはこれ以上の無理はできない。
『――作戦を第二段階に移行する! アルファ・ユニットは前方斉射の後、全機吶喊して近接戦闘! 国防隊は我々の頭上を越えてください!』
大丈夫、想定どおりだ――必死に自分を落ち着かせる。
元よりイモータルズの打撃力だけで突破できる状況ではなかった。
道中でポジションを入れ替えるという作戦になっていた。
『――0901了解! 中隊、聞いたな!? と、突破する!』
微かに震える声で中隊長の心情を想像。
『――ヴァルキリー1よりパペットマスター! おまえたちがやるんだ! 突破口を開け!』
『――了解!』
来る――最後尾に展開していたイモータルズの2機の不知火が前に上がってくる。
ドーンパープルとスノウホワイト――彼女たちについていく。
どこまでついていけるかはわからない――難しいとはわかっている。
死ぬかもしれない――それでもやるのだ。
国防隊の一番手としてイモータルズに喰らいついてやる。
操縦桿を握りしめる――フットペダルに掛けている体重を微かに増やす。
無線を切って叫ぶ。
「やってやる! やってやる! 私にはできる! 私なら絶対にできる!!」