1-11. 現実世界 挟撃
撃震の足音はイモータルズの戦術機より重い音がする。
重装甲で堅牢――それが第1世代戦術機の特徴だ。
イモータルズが主兵装として運用している不知火は第3世代戦術機であり、機動性が重視されている。
軽快っていうけど、これ以上ピーキーになって操縦できるのだろうか――操縦桿を握りながら思考する。
先行する斥候を追って、緩々と行軍は再開されていた。
通信を落とした管制ユニットは完全に孤独であり、ほんの僅かではあるが気を抜くことができた。
イモータルズの中にただ1機の国防隊機――守られている感覚と監視されている感覚が同居している。
束の間の会合であったが、ヴァルキリー1たちとの語らいは有益だった。
「イモータルズの噂の信憑性は高いのかもしれない……」
独り言を呟く――彼女たちは何か秘密を抱えているのは間違いないような気がする。
確かめてみようと思ったのは軽い気持ちからだった。
誰も地下茎に入ったことがないはずなのに地下茎構造のデータを持っていたことが引っかかったのだ。
だが、答えは誤魔化された。
だからもうひとつ、自分の知っている情報をぶつけてみようと思った。
横浜撤退戦にて自分を救ってくれた山吹色の戦術機――武御雷という名の戦術機だとは帰投して知った。
いつか機会があれば礼を言いたい――そう思い、ツテを辿ってイモータルズの戦術機について調べてみた。
その結果、横浜にて山吹色の武御雷は大破し、両主腕が新規発注されたという情報を戦術機メーカーから得ることができた。
慌てて衛士の無事を確認しようとしたが、メーカーの人間も知らないようだった。
上官に掛け合ったが、教えて貰えなかった。
おそらく上官自体もイモータルズの戦果や損害は知らされていないのかもしれない。
粘り強く交渉を続けた結果、ある日、横浜撤退戦報告書の再精査を命じられた。
今更何だと思いつつ、戦術機のガンカメラ映像やデータリンクと報告書を突き合わせる作業に没頭した。
他部隊の報告書とも照合し、細部を詰めていく。
こんなことよりシミュレーター演習がしたいという欲求を抑えつけて作業を継続――すると司令部とイモータルズのやり取りに関する報告書を発見した。
自分の立場で見ていいものなのだろうか――瞬間の動揺は窃視の衝動に塗り替えられた。
参考資料としてこれを渡してきた上官が悪い――言い訳はいくらでもできる。
あるいは自分の要求に辟易した上官が、こっそりと手配してくれたのかもしれない。
そう都合良く考えて報告に目を通した。
イモータルズは広域に部隊を展開させていたが、自分と近い戦場にいたのはそれほど多くなかった。
あとは戦闘のタイムラインがわかれば、該当機体を割り出すのは簡単だった。
自分たちと接触した部隊の動きを追い、自分たちが撤退した後も彼らが救助活動を継続していたことを知った。
またあの奥地に戻ったんだ――自分たちの救助活動に見落としがあったことの証左。
仕方なかったとはいえ、これはミスだな――そう考えながら書類を捲る。
そして――アルファ・ユニット001003A――撃墜:衛士死亡。
そこで視線が止まった。
戦術機の名前も衛士の名前も記載されていないため、それが山吹色の戦術機を意味するかはわからない。
だが、嫌な予感がしていた。
だから彼女の安否を尋ねてみたのだ。
しかし、答えは濁された――今回は作戦に参加していません。
負傷しての欠場なのか、それとも戦死なのか――もう一歩踏み込んで尋ねるべきだったのかもしれない。
そうできなかったのは、自分も撃墜の原因なのかもしれないと思ってしまったからだ。
『――前方よりBETA接近の音紋を感知! 中隊……いや、大隊規模!』
無線接続音――先行している斥候からの報告。
『――ヴァルキリー1よりクワイエットウルフ。貴様たちとBETA群の彼我距離は?』
『――距離は15~16キロと思われる。観測を継続中、判明次第、再度報告する』
地下茎内では電波が乱反射するためレーダーの精度が著しく落ちるため、代替する観測機が使用される。
本隊より5キロ先行した斥候は戦術機の足裏に装備されている音紋観測機で微振動を検知。
過去の振動パターンと照らし合わせ、BETAの数、構成種を割り出す。
おそらく地下で直線というのが有利に働いたのであろう――想像以上に遠くにいる集団を補足したようだ。
電子音とともに通信ウィンドウが立ち上がる――ヴァルキリー1とパペットマスター。
『――どうしたい、管理官? まずは貴様の意見を聞かせてくれ』
ヴァルキリー1は試すような笑みを浮かべながら、そう言った。