2-15.現実世界 共闘

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砲弾を融通して貰った後、部隊は戦術機の主電源を落として待機した。
音紋センサーでBETA群の状態を探りながら主広間メインホールからのBETA群の流出が終わるのを待つ。
主広間メインホールからつながる横坑ドリフトは3ルート――そのうちひとつはこちらにつながっているが、BETAが寄ってくる気配はなかった。
『――地上の連中、遊んでたわけじゃないみてーだな』
低知能の怪物どもは囮に釣られて散歩に出たみてーだぞ――朱土岐あかときさんの皮肉混じり言葉には喜びの気配があった。
『――0901よりパペットマスター。どうやらこれ以上は減らないと思うが――』
中根なかね中隊長からの通信――伊隅いすみさんに視線を飛ばすと彼女は黙って頷いた。
「――同意します。タイミングだと思います」
第9中隊とアルファ・ユニットの残機数が少ないこと、そして何より地上の攻撃が一点に集中したことによって、主広間メインホールに展開していたBETA群の大半が移動していた。
震動から推測される主広間メインホールのBETA群は連隊規模――S-11を使えば処理は可能と思われた。
中根なかね中隊長が息を深く吸った。
『――0901より第9中隊に告げる。これより我々はイモータルズと共に反応炉制圧を行う。困難な任務だが我々ならばきっとやり遂げることができると私は信じている』
それは朗々とした宣言だった。
「パペットマスターよりオール・イモータルズ。作戦内容は先ほど説明したとおりです。BETAを掃討して反応炉を確保。叶わぬ場合は破壊」
その判断は自分か伊隅いすみさんが行うことになっている。
「小倉を落とせば西日本が救われる。そして佐渡島、横浜を東西で挟撃し、日本からBETAを抹消する。――これは異星起源種どもから日本を取り返すための旅の第一歩です」
やられるだけの時代は終わりにする。
「困難に直面した時、人がどれだけのことができるのか――我々学んだはずです」
彼女の友人だった衛士たちの顔を見詰める。
動揺はない。
熱狂もない。
ただ決意だけがあった――自分も続く、と。
「流血も涙も怨念も――すべてを力に変えて叩きつけましょう。奪われたモノすべてを取り返しましょう」
自分の言葉はそこまでにした。
その後は伊隅いすみさんが受け継いでくれた。
『――全機吶喊ッ! 地獄を見せてやれ!』

東雲 祉乃

戦術機部隊としてのイモータルズの動きに東雲しののめは圧倒されていた。
突撃前衛ストーム・バンガード――長刀を振るい、突撃路を開く者たちに躊躇いはない。
鋏で紙を切り裂くようにBETAの群れを両断していく。
ただ前だけを見て、背後を振り返らずに飛び込んでいく。
何より驚かされたのは天井から落ちてくる中型種を狙撃する迎撃後衛ガン・インターセプターの動きだった。
天井に張り付いたBETA群――兵士ソルジャー級や闘士ウォーリアー級を完全に無視し、戦車タンク級、要撃グラップラー級といった高脅威のBETAのみ撃ち落としていく。
突撃した仲間には絶対に触れさせないという鋼鉄の意志が感じられた。
そして打撃支援ラッシュ・ガード制圧支援ブラスト・ガードは他ポジションと有機的に嚙合い部隊が最大の打撃力を発揮できるように動いていた。
『――なんで仲間のやることが全部わかるんだ……』
国防隊衛士の呟き――畏怖。
「……そこまで自分たちを磨き上げなきゃ生き残れなかったんでしょ」
イモータルズの見てきた地獄――想像するしかないが、それは現代日本の状況より酷かったのだろう。
それを乗り越えるために彼女たちは戦ってきたのだ。
『――東雲しののめの言うとおりだ』
中根なかね中隊長だった。
おや、と思ったが馬鹿にしようとは思わなかった。
この人には伝わった。
考え方がどう変わったかはまだわからないが、少なくともいまは協力者でいてくれるのは確実だ。
『――間もなく合図があるはずだ。技術では劣るかもしれないが、気概だけはイモータルズに勝るのだと証明したい』
衛士たちの顔に笑みが浮かぶ。
これでいい――東雲しののめも自然と笑っていた。
イモータルズが道を開き、第9中隊が反応炉に取り付く。
反応炉を背にすれば敵の突進力は落ちる――あとは可能な限りBETAを始末していく。
その状態を維持していくことが戦力的に不可能だと判断された場合、反応炉破壊へと動く。
無線接続音――通信ウィンドウが立ち上がり、パペットマスターの顔が表示された。
来たか――操縦桿を握る手に力が籠る。
号令が下りた瞬間に飛び込んでやる――衝動に全身が支配される。
『――作戦修正! 作戦を修正します!』
え――動きを止める。
『――反応炉に異常あり! 目標は通常の反応炉にあらず! 作戦を修正する、その場にて待て――』
なんだ――何が起きている。
困惑と不安。
隊員たちから漂う気配が硬い。
だが、それでも指示に従うべきだと思った。

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『――こいつ!』
反応炉から伸びた触手が彩峰あやみね機を掠めた。
不知火しらぬいの肩部装甲が弾けた――伸縮自在な触手を躱し続けるのは不可能だと思えた。
『――下がれ、クワイエットウルフ!』
たかむらの怒声――注意を引くように大胆に接近したが、槍のように伸びてきた触手に阻まれてしまう。
『――野郎、やけに小さいと思ったら! 何だよこれは!!』
朱土岐あかときの罵声――そのとおりなのだ。
目の前の反応炉は自分が資料で見ていたものとまるで違っていた。
「これは……」
これは想定していなかった――思考がまとまらない。
反応炉の姿を確認した瞬間、第9中隊には待機を命じた。
それはいい――だが、ここからどうすればいい。
「どうするんだ、管理官」
視線が伊隅いすみを探してしまう――彼女は何か考えているようだった。
「このままでは近接組がやられてしまう」
千木良世ちぎらせ――前衛を支援しながら問いかけてくる。
前衛の駒数を増やすべきか――第9中隊を呼べば可能だ。
だが、それは最後の札を切ることになる。
もし新たに不測の事態が発生した場合、対応手段がなくなるということだ。
『――新種だ、パペットマスター。あれを捕まえたい!』
「はぁ!?」
『――あれは未確認種だ! 少なくとも私のいた世界では確認されていないはずだ』
「し、しかし――」
『――存在が噂されていた反応炉へ進化する特殊個体かもしれない』
伊隅いすみの説明で希少種だとは理解した。
だが、相手は通常の大型種よりも大きい。
本当に捕獲できるのか――その手段が思い浮かばない。
「その前に生き残れるか、わからないぞ?」
千木良世ちぎらせが会話に混じる――正論。
『――わかっている。だがBETAの生態は謎が多い。何かわかれば有効な対策を打てるかもしれない』
これは千載一遇の好機だと伊隅いすみの表情が語っていた。
確かに有効な対策は喉から手が出るほど欲しい。
だが、そのためには撃破ではなく確保が必要――現状、反応炉モドキに取り付くことも難しいというのに。
「早く決めてくれ!」
千木良世ちぎらせの焦り――状況を動かさなければジリ貧になると予感しているらしい。
それはわかる――だが、どうする。
考える――予備の戦力として第9中隊が残っている。
S-11も使える。
だが、反応炉モドキを無力化して、そのまま地上へと搬出できるだろうか。
難しい――いま地上へ誘導されているBETA群はいずれ戻ってくる――時間が足りない可能性が高い。
地上に展開している国防隊が、その尻を叩いてくれる可能性はあるが、それだけに賭けるのはギャンブルでしかない。
そもそも、ここから脱出できるのだろうか――主広間メインホールからつながる道は3つ。
3ルート――何かが引っ掛かった。
先ほどまで自分たちがいた場所には主広間メインホールからのBETAは来なかった。
残る2ルートを使ってBETA群は移動した――戻ってくる場合は、当然その2ルートを使うだろう。
2ルート――瞬間、答えが見えた気がした。
「ヴァルキリー1、前提としてあの反応炉モドキの無力化は可能ですか?」
『――可能だ。奴は殆ど移動していない。触手さえ除去できれば、それほどの脅威ではない』
なるほど――触手という攻撃手段さえ奪ってしまえば、あとは遠巻きにして一方的に攻撃できるというわけか――伊隅いすみの観察眼に感心する。
「いま、主広間メインホールにいるBETAの殲滅は――」
『――国防の第9中隊を動かせば可能だ。こちらが考えていた以上に小型種が多かった』
脅威度の高い大型種、中型種が予想より少なかったと伊隅いすみは考えているらしい。
できるかも――主広間メインホールの構造図をもう一度呼び出す。
視線が躍る。
できる――それは確信へと変わった。
「やりましょう、ヴァルキリー1。賭けにはなりますが、あの新種を捕まえることは可能だと思います」
『――何か思いついたのか?』
はいと頷いた――そして答えた。
「新種を放置して、まずは主広間メインホールの掃除を!」
新種は捕まえないで放置するのかと千木良世ちぎらせが頭に?を浮かべていた。
「いまはいいんです。触手の長さには限界がある。距離を取ればあいつは何もできない。――あとは簡単です。BETA群が戻ってくるルートはすでにわかっています。そのルートにS-11を仕掛けます」
伊隅いすみさんの顔が輝いた――作戦を理解したのだ。
『――なるほど、距離さえあれば反応炉モドキは脅威ではなく、あとはBETA群が戻ってきたらS-11で吹き飛ばすのか!』
「はい、そうです。つまり――」
地下茎スタブの硬い壁は砲身と同じ――戻ってくるBETA群にS-11は大打撃を与えてくれるはずだ。
『――貴様、性格が悪いな!』
悪戯を成功させたかのような笑みを伊隅いすみは浮かべていた。
『――敵の大将を包囲して捕まえず、大将を救出すべく戻ってきた敵を罠に掛ける、か』
「攻めるのに苦労しましたから。――その分、守るのは楽かと」
『――納得だ。第9中隊に連絡を頼む。アルファ・ユニットには私が伝える』
お願いします――そう言って通信を終える。
通信ウィンドウを視線操作して呼び出しを始める。
「パペットマスターより、0901、0902.方針が決まりました」
『――0901よりパペットマスター、すぐに対応する。教えてくれ』
「まずは周辺のBETAの掃討を! 新型BETAは捕獲します」
『――捕獲? できるのか?』
「可能です。あいつはそれほどの脅威ではありません」
『――理解できないが、納得しなければいけないのだな?』
「ありがとうございます」
降参だと中根なかねは笑みを浮かべた。
『――質問を。脱出する余裕はないと思いますが?』
東雲しののめの問い――真剣。
「脱出はしません」
ふたりの顔に不審感が見えた。
「戻ってくるBETA群はS-11で吹き飛ばします」
ふたりは先ほどの伊隅いすみ同様に何かに気づく。
「――籠城します。我々は地下茎スタブに籠城して味方を待ちます」

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