1-5. 現実世界 関東遠征

東雲しののめ祉乃しの

2023年10月3日

「――要撃グラップラー級5、戦車タンク級40~50体を確認。闘士ウォーリアー級、兵士ソルジャー級の数は不明。おそらくそれぞれ数百体といったところだ」
木立の中に機体を隠し、頭頂部のカメラで山中のBETA集団を捕捉――何故か小声になって無線報告を入れた。
『――了解。監視を継続せよ』
即座に指揮所からの返信――操縦桿を握る掌が若干緩む。
監視対象のBETA小集団は周辺の樹木をメリメリと倒し、ゆっくりと進んでいる。
その様子は偵察部隊というよりも工作部隊――山中に棒道を築こうとしているようにも見えた。
白河要塞――正確には白河防御陣地群とでもいうべき軍事拠点から出撃した私たちは旧東北自動車道沿いに南下。
主力は19式装輪自走155mm榴弾砲、203mm自走榴弾砲で構成された火砲部隊だ。
我々戦術機部隊は火砲部隊の護衛を兼ねた戦闘部隊であり、道中BETAの小集団を殲滅しつつ、矢板市に進出していた。
『――CPより0902。解析完了。監視衛星が捕捉した集団で間違いないようだ。これより榴弾砲撃を行う』
「――0902了解」
私が監視しているBETA集団へ19式装輪自走155mm榴弾砲部隊による攻撃が行われるという報せ――19式の最大射程は40キロ以上ある――おそらく旧東北自動車道を那須高原辺りまで進行している部隊が砲撃するのだろう。
再び無線が繋がり、衝撃に備えよと伝達される――とはいえ、戦術機に乗っている私にできることは何もない――ただ、自分の頭上に榴弾が落ちてこないことを祈るのみだ。
数分の後、轟音と土煙――5発の榴弾が着弾――1発も迎撃されなかった――光線レーザー級は近くに一匹もいない。
「――0902よりCP。初弾は群れの中央に全弾着弾した。光線レーザー照射は確認されず」
『――CP了解、本命を叩き込む』
観測射撃の後に効力射が続く――それが砲撃の定跡。
「――くるぞ、耐衝撃姿勢」
部下たちの応答――わずかばかり戦術機の姿勢を修正――着弾座標がズレて自分たちに命中すればすべてが終わる。
連続する着弾音――おそらく初弾の3倍位以上の榴弾が投入されたはずだ。
頼む、死んでてくれ――誰かの呟きが受信機から飛び込んでくる――舞い上がった埃が落ち着くのをじっと待つ。
「……要撃グラップラー級1体の撃破を確認、4体は生存。戦車タンク級はまだ20体以上残っている模様」
着弾の結果を報告――撃ち漏らしが多いのは仕方がない――生き残った要撃グラップラー級どもは体表に積もった埃を払おうともしていない。
M107榴弾の殺傷威力範囲は50m以下だったと記憶している――効果範囲内の小型種が全滅したとしても中型種は弱点に直撃しない限り撃破できない。
費用対効果として成立しているのだろうか――不安になる。
関東失陥によって日本の経済力は大幅に落ちている――いずれ砲弾に困窮する未来がくるかもしれない。
『――03小隊第2分隊は敵残存勢力を殲滅せよ』
「――了解。これより攻撃を開始する」
数を減らしてからでないと戦術機を投入できない――だが、それがいまの国防隊戦術機部隊の練度だ――虎の子の戦術機を失うわけにはいかない。
指揮所との通信を終えた私は僚機に声を掛ける。
「聞いてたわね? 私が前に出る。援護を頼む。お願いだから私に当てないでね」
敵味方識別装置によって直接的な同士討ちを未然に防ぐことは可能だが、跳弾はその範疇にない。
突撃デストロイヤー級の装甲殻や要撃グラップラー級の前肢に跳ね返った劣化ウラン弾で破壊された機体の写真が教本に掲載されていた。
『――は、はい、了解です!』
僚機はこれが初陣――何とも頼りないが、恐慌状態になっていないだけで合格とするしかない。
近接格闘戦を仕掛けてみようか――一瞬、甘い誘惑を感じた。
撃震げきしんの操縦桿をぎゅっと握りしめて私は思い出す――あの日見た傭兵たちの戦いを――あの美しい剣の舞いを――。

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同時刻――
白河要塞から出撃したイモータルズのアルファ・ユニットは想定どおり国防隊とは別口で行動した。
棚倉町を経て常陸太田市へ進出――その後は水戸市を経由して霞ヶ浦へ向かう想定。
イモータルズ戦術機部隊は索敵しつつ、前進を継続――常陸太田市までに小規模な戦闘が3回――そのすべての戦闘で損失はなかった。
常陸太田市は疎開によりすでに無人であったが、あの日、関東で見た光景よりは荒廃しておらず、そのためかゴーストタウンという言葉が妙に似合っていた。
旧東北自動車道を進む国防隊が遅れているとの情報を受けたイモータルズは水戸市まで先行――そこで中隊規模のBETA群と戦闘――20分後にはこれを撃破し、進軍を継続。その後、単独で石岡市まで進出した。
だが、国防隊の遅れは大きく、合流にはかなりの時間を要すると推測された。
補給を考慮したイモータルズ戦術機部隊は大洗町まで後退――日立港沖に展開していた旗艦デウカリオンにて補給を受けることになった。
「大きい……こんな船が本当に……」
洋上を低空飛行していた戦術機が高度を200mまで上げる――千木良世ちぎらせの操縦する不知火しらぬいの管制ユニット後席――網膜に投影された大海原、そして巨大な艦艇。
「あれが我が社の旗艦デウカリオンだ」
千木良世ちぎらせの声が若干高揚している――単純に巨大な人工物を視認した時に発生する興奮――人の叡智の結集。
「あんな形、見たことがない……」
正直な話、あんなに巨大で重そうな物体が海に浮かんでいる事自体が不思議だ。
そして、それ以上に気が惹かれるのは近代戦艦と二隻の空母を連結させたかのような異様な形状――少なくとも自室の図鑑に、こんな形の船舶は載ってなかった。
「ソナードームからハイドロジェット先端までの全長は1180m。そして最大全幅は500mくらいで全高は180mほどだったはず。すまない、暗記させられたが自信はない!」
千木良世ちぎらせの言葉を聞きつつも、視線はデウカリオンから外せない――その巨体はまさに海上に浮かぶ城と言って差し支えがない。
戦術機のデータリンクで該当情報を呼び出す――AR機能が起動してデウカリオンの構造ガイドが表示された。
「最大積載で120機の戦術機が……!?」
無論、飛行甲板係留を含む数字だと理解しているが、それでも凄い数であるには違いない。
「今回の作戦では単艦で運用されているが、打撃群で動くと凄いことになるぞ」
空母が単艦で運用されるはずがない――当たり前の事実に衝撃を受ける。
ひょっとしてイモータルズとはとんでもない組織なのでは――自分の認識のズレを自覚する。
電子音――無線接続。
『――馬鹿者、高度を上げるな! 丸焼きにされたいのか!』
神宮司じんぐうじの叱責――名乗られなくても声色でわかるようになっている。
「管理官にデウカリオンを見せてあげたかったのです!」
『――いいから早く高度を下げろ! この馬鹿者!』
上官に抗弁はマズい――反射的に通信に割り込む。
「自分が千木良世ちぎらせさんにお願いしたんです、記憶が戻るきっかけになるかもって! 千木良世ちぎらせさんはそれに応じてくれただけで……! 謝るのは自分なんです、申し訳ございません!」
気まずい沈黙。
『……わかった。――作戦終了次第、貴様とはいろいろ話さなければならないようだな、管理官』
神宮司じんぐうじの貼り付いた笑顔が連想され、背筋がぞわっと泡立った。
戦術機の着艦は垂直/短距離離着陸機や回転翼機に似ている――速度を落として進入――相対速度をゼロにするのと同時に高度を落としていく――何の衝撃もなく着地。
それから後続機の着艦に備え、甲板上を指定位置まで移動していく。
着艦というのは衛士の腕の見せ所のひとつのようで、衛士たちはどれだけ早く、衝撃を与えずに着陸できるかどうかを競っているように見えた。
その流れの中で千木良世ちぎらせ紫宵よいという衛士の腕前が高いレベルにあることを改めて認識――オペレーターの感嘆が無線越しに聞こえたのだから間違いないと思う。
「着陸成功! 安全区画まで主脚移動する!」
千木良世ちぎらせの声が弾んでいる――何かいいことでもあったのだろうか?

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