1-16. 現実世界 刃縁舞踊

篁 唯依

跳躍ジャンプユニットの唸りが耳を劈く――軽い頭痛が続いていた。
再生を受けると必ずこうなる――それはもう経験則で理解していた。
噴射地表面滑走サーフェイシング――地形の凹凸を戦術機の膝部関節で柔らかく吸収させる。
戦場が近づいてくる――胸の鼓動が高鳴っていく。
こめかみにずきりとした痛み――小さく声を零してしまう。
『――大丈夫?』
通信ウィンドウにホワイトリリィ/甲斐かい志摩子しまこが表示された。
「問題ない」
志摩子しまこの表情が強張ってしまった――冷たい声が出てしまったようだ。
ホルモン分泌の影響で感情のコントロールが難しい。
謝ろうと思ったが、気の利いた言葉が浮かばない。
間もなく殺し合いが始まる――敵を殺し、敵から殺されるかもしれない状況が始まるのだ。
『――戦闘を目視にて確認! 不知火しらぬいが2機――ドーンパープルとスノウホワイト。後続はまだ地下茎スタブ内と思われる』
ファイアジェリー/能登のと和泉いずみからの警告。
聞き慣れたはずの声――それなのにどうしようもなく不安が強くなっていく。
『――唯依ゆい! 調子悪いなら、あたしに任せろ!』
シルバーエッジ/石見いわみ安芸あきが前に出ようとする。
『――止まりなさい、突撃前衛ストーム・バンガードはホワイトファングよ』
パニッシャー/山城やましろ上総かずさの声に心臓が撥ねた。
あの日に亡くなったはずの仲間たちがいまここにいる。
理屈は説明を受けたので理解している。
それでも肉体が震えた。
眼を閉じて深呼吸すれば過去の記憶が生々しく再生される。
それらは止めようのない心象風景の奔流となって、生まれたての精神を破壊しようとするのだ。
『――いいわね、ホワイトファング』
通信ウィンドウには覗き込んでくるような視線の山城やましろ上総かずさ
彼女の感情は読めない。
昔からそうだった――彼女と私は深い所でつながっているようで、ずっと離れた場所にあるような気がしている。
「任せて。肩慣らしには丁度いい」
精一杯に虚勢を張って答えた。
今日の自分は彼女の指揮下にある。
通信ウィンドウ内の山城やましろ上総かずさが頷いた。
『――パニッシャーよりブラボー・ユニット各機に告げる。兵器使用自由』
了解――返答する声にかつての同期の声が重なる。
安全装置セーフティを解除し、背部兵装担架から長刀を引き抜く――陽光が刀身にぎらりと反射した。
『――突撃の号令は任せるわ、たかむらさん』
幻聴――貴女が何者なのか、証明してみせなさい。
右の主腕に保持したのは異星起源種を切り裂き、叩き潰すための兵器。
鍛錬を積み重ねた結果、自らの肉体で真剣を振るう時よりも馴染んだ武器。
『――どうだか。あんな下手くそどもと、あたしらの命を交換するとはね……』
聞いたことのある声――何の感傷も湧かないということは最近の知り合いらしい。
「――馬鹿者、諦めるとは何事だ!」
反射的に声を上げた。
データリンクが接続され、通信ウィンドウが立ち上がる。
唖然とした男の顔――その間の抜けた顔が何故か緊張感を緩めてくれる。
「情けないぞ、管理官! このような窮地、過去にいくらでも経験したはずだ! ならば折れるな! 打ち返してみせよ!」
そうだ――自分に言い聞かせる。
一度二度の死など何ということもない。
「ブラボー・ユニット見参ッ!! 全機、近接格闘戦用意……!!」
強い感情の波が己の理性を補強してくれる。
「吶喊ッ!!」
肚の底から叫んだ。
それは再誕してから初めての経験であった。
そして、その雄叫びは狼の咆哮にも似ていた。

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