1-1. 現実世界 depth of life
2023年9月8日
宮城県岩沼市のイモータルズ岩沼支社は仙台市の中心部から南に15キロほど離れた産業振興用地に建設されていた。
民間軍事会社が占有する区画は厳重に警備されており、関係者以外の立ち入りが禁止されている。
岩沼支社は支社ビル、格納庫兼整備工場、営舎、訓練用グラウンド、模擬戦用廃墟など多数の施設で構成されており、今なお拡大を続けており、重機の走り回る喧騒が絶えることはない。
出自が明らかではない新興企業を探るべく、記者たちが周辺を嗅ぎ回っていたが、関係者や出入りの業者が口を割ることはなかった。
守秘義務契約違反を咎められることより、別の何かを恐れているように見えたと、後にある記者はそう回想した。
戦術機衛士訓練校第3会議室――大学の講義室を連想させる造りの部屋。
配置されているのは実用的な道具だけ――一体型の長机と付属する椅子――教壇とPCと大型モニター。
妙齢の女性/神宮司まりもがモニターを操作すると画面が異形の構造物を映し出した。
「これが2001年にカシュガルに出現したBETAの最初の拠点であるハイヴだ。現時点で地球最大のハイヴとなる」
高高度から撮影されたであろう画像にはハイヴ01という注釈が付けられていた。
所在地は中国新疆ウイグル自治区カシュガル――「フェイズ6」と追記がある――何のことだろうか――質問しようとして躊躇う――意識回復から3日経過したが、まだ記憶は戻っていなかった。
「H01――通称カシュガルハイヴと呼ばれている」
教壇に立つ神宮司まりもはそう付け加えた。
ハイヴ――確か蜂の巣のことだったと思い出す。
異形の建築物――まるで栄螺や牡蠣の貝殻を何段にも重ねた塔のような形状――この形に何か意味はあるのだろうか?
「ハイヴは地表構造物と地下茎で構成されており、地表構造物をモニュメント、地下茎をスタブと我々は呼んでいる」
画像が切り替わり、構造概念図が表示された――歪で異形な地表構造物の下には、蜂ではなく蟻の巣のような地下茎が広がっている。
地表構造物高度1000m以上、地下茎構造物の水平到達半径100km以上、最大深度4000m以上――巨大過ぎると思った。
「大きいですね……」
特に深度4000mともなれば温度は100度を超えるはず――地下深くの炭鉱内で上裸の男たちが汗塗れになっている映画を鑑賞した記憶が蘇る――肝心なことは何も思い出せやしないのに、何故こんなことは思い出せるのだろうか――その上で、そんな場所で生存できるのかと疑問に思った。
次の瞬間、地球外起源種という言葉を思い出す――敵は地球の常識で測れる存在ではないのだ。
「ハイヴがフェイズ5以上にまで成長すると何かを宇宙へ射出することが判明している。射出された物体は太陽系から離脱する進路を取ることが観測されている」
「太陽系外に何を……?」
星系外ともなれば何光年も先の場所が目的地となるはず――簡単な話ではない――そこに送り出す価値のある物とは一体何なのだろうか――疑問。
何か地球独自の――SF映画であれば水や人間の精気を求めて異星人が来襲してくるという物語はよくあるが、それらの物質に宇宙的価値があるとは考えにくい。
「ちなみに地表構造物は月でも火星でも発見されているぞ」
それまで黙っていた千木良世が説明を付け足した。
千木良世は見舞いにきてくれた時と同じ、スポーティーな衣装を身に纏っている――明らかな私服――傭兵会社に制服の規定はないのだろうか?
彼女は自分も再学習したいと講義に出席していたのだが、すでに飽きたのであろう――鼻と上唇の間にペンを挟んだまま発言していた。
「月と火星ですか……」
「そうだぞ。月のハイヴは望遠鏡でも見られる」
BETAは地球だけではなく太陽系内に点在している――嫌な想像をしてしまう――この戦争は地球上のBETAを殲滅するだけでは終わらない。
「他の星のハイヴからも何かが射出されているのですか?」
もし、そうであるならば――遥か彼方に異星起源種の母星のようなものがあるのかもしれない。
「お、さすがは管理官、いい所に気づいたな!」
唇をみゅーんと突き出したままの発言――まるで小学生のように行儀が悪い千木良世を横目でちらりと眺め、思考を進める。
仮に光速で何かを送り出せたとしても、その情報が他星系まで届くには膨大な時間が必要になる。
「物質的な何か……それも劣化しないモノでなければ……」
「射出物についてはおおよそ見当はついているが……それは今日の主題ではない」
神宮司が思考を遮った――それが何なのか尋ねてみたくはあったが、とりあえず講義を聞く態勢に戻る――わかったところでどうなるという話でもないし、いつか聞ける時もあるだろう。
「――話を戻す。ほぼ同時刻に世界の七箇所にハイヴが出現。それからハイヴの数は増大し続け、現在までに34基が確認されている」
34基――画像は世界地図に切り替わり、ハイヴの位置を示す光点が明滅していた。
「……日本にも三箇所もあるんですね」
手元に配られた資料を捲る――横浜、佐渡島、小倉に印が穿たれている。
「そうだ。――ある日、突然その場所にあったはずのものは消え、奴らの拠点が存在していた。まるで何十年も前から、そこにあったと言わんばかりにな」
ある日、突然家の前に巨大なハイヴが出現する――その時の混乱を想像するのは難くない。
眼の前にあったはずの公園が、学校が、友人宅が消失し、化物の巣に成り代わる――そこから発した悲劇は、人々が避難勧告に従わず危険域に残留し続けた事実につながるのだろう。
「人類の生活圏に突然出現した異形の構造物……当然、調査が行われたが得られたものはなかった。外壁を傷つけることは叶わず、非破壊検査で内部構造をある程度分析できたのみだ」
一瞬だけ、神宮司は沈鬱な表情を浮かべた。
「しばらくの間、ハイヴは活動の兆候を見せず、人々は通常の生活に戻っていった」
異物を社会が当然として受け入れてしまうだけの時間――。
「そして今から13年前、2010年の話だ。突如としてカシュガルハイヴから噴出したBETA群は包囲していた中国人民解放軍を瞬く間に蹂躙した。陸上兵器は容赦なく踏み潰され、航空戦力は一機残らず撃墜された」
当然の話だと思った――脳裏に突撃級の突進が蘇る。
正面から撃ち込んだ120mm砲弾は装甲殻で弾かれ、何の損傷も与えられなかった。
航空戦力も同様だろう――光線級に捕捉されたら撃墜される――戦術機ならば遮蔽物やBETAの群れに身を隠すことは可能だが航空機には無理だ。
人類同士の戦争で生まれた技術が通用しない敵と遭遇してしまったのだ――包囲していたのが世界最強の米軍であったとしても、結果は同じだったはずだと思った。
「この戦闘により、人民解放軍は戦線を100キロ後退。干渉地帯を設け、遅滞戦術を持って対抗したがBETAの勢いを留めることはできなかった。BETAは中央アジア全域に渡って拡散し、その勢力圏を拡大していった」
中央アジアを表示していた地図に赤い光点が増えていく。
「BETAの勢力下に入った地域はすべてが失われていく。動植物のすべてが消失し、平らに均された荒野だけが残る。BETAどもが何かを回収したためと考えられているが、詳細は不明だ。そしてBETAがヒマラヤ山系に侵入したことで世界の命運が完全に変わった」
神宮司がマウスをクリックすると画面はヒマラヤ山系から伸びる河川を表示した。
「インダス川、ガンジス川、ブラマプトラ川、黄河、長江――また、これらから分岐するあらゆる河川が枯渇した。水資源の激減により、中央アジア、インド大陸での農業生産は壊滅的状況に追い込まれ、大量の難民が発生した。その結果、これらの河川に水資源を頼っていた国家の大半が統治能力を失った」
「そんな……」
五大河川から続く支流――それら河川が流れる国家を表示していた色が変わる――その膨大な流域面積に息を呑む。
「つまり――カシュガルにハイヴが出現した瞬間に人類は王手を掛けられていたことに気づかなかったということだ」
ヒマラヤ山系が生み出す水資源を抑えるだけで、事実上ユーラシア大陸は終わった。
インドと中国の人口――それぞれが15億人に近い人口を抱えていたはず――それだけではない――河川の経路を辿っていけば、東南アジアや中央アジアの国々でも同じことが起きたと理解できる。
「BETAとの戦争で難民になったわけではない。食料事情の悪化で難民になったのだ。人々は、その数をほとんど減らさず、中東、欧州、アメリカ、オーストラリアに流れていった。40億人近くの難民が移動しようとすればどうなるか、想像できるか?」
40億人の大移動――ごくりと喉が鳴る――荷物を抱えて歩く人々のイメージ――老人、子ども、病人、妊婦――絶望。
「避難先でも食料が不足するんじゃないですか……」
「そうだ。受け入れ側もシステムを構築することができなかった。難民たちを食わせていくシステムの構築に失敗した。しかも、難民への対応が間に合わない状態でBETAによる侵攻を受けることになった。結果として治安は悪化し、人心は荒廃した。――各国政府と国連は状況を鑑み、様々な場所に入植地や租借地を設けたが、残念ながら焼け石に水だった。難民と現地民の衝突は各地で勃発し、人種差別、国籍差別が今もまだ拡大している。BETA禍から端を発した難民問題は現在の地球が、そして人類が抱える最大の問題になっている」
ヒマラヤの水源地を占拠されただけで人類文明は危機に瀕している――地球外起源種はこれを狙って行ったのだろうか、それともただの偶然なのだろうか。
「人道や倫理で考えれば難民はすべて受け入れるべきだろう。だが、『そこまで要求されるとは聞いていなかった』というのが受け入れ側の本音だ。戦時中で自分たちの生活も悪くなっていく中で税金は上がり、食料が不足し、治安も悪くなっていく。――BETA禍で数十億の人間が亡くなったが、半分は人類同士の衝突によるものだという説もある」
そこまで酷いのか――突きつけられた現実に暗澹たる気持ちになる。
「そして日本だ。佐渡島、横浜、小倉の三箇所にハイヴを抱えた日本も人口が7000万人まで減少した。難民受け入れに伴い一時は人口が一億八千万人を超えていたのだがな。――そして二ヶ月前の戦闘で関東圏はBETAの勢力下に落ちた」
二ヶ月前の戦闘――紅い鮮血と黒髪――白い飾り紐と山吹色の欠片――強烈な目眩に襲われた。
「日本政府は首都を仙台に移転した。しかし、国土を東西に分断された影響は大きく、現在、関西圏は大阪を中心に知事連が自治を行っている状態だ。また関東放棄に伴い、諸外国との貿易量も激減。経済は悪化の一方だ」
唖然――そして呆然――どう考えても日本は詰みではないだろうか。
「それと――先ほど34基のハイヴがあると言ったが、これは正確ではないかもしれない。何故なら深海は未調査であり、そこにハイヴが存在している可能性は否定できないからだ」
クシャという小さな音――自分が手元にある資料を握りしめていたことに気づく。
「おおよその事情はいま説明したとおりだが……どうだ、まだ何も思い出せないか{{firstName}}管理官?」
「申し訳ないですが、まだ……」
{{firstName}}{{lastName}}――聞かされた本名は未だにしっくりとこない――自分はあやふやな存在だ。
肉体は順調に回復したが記憶は戻っていない――己の不甲斐なさに若干の苛立ちと羞恥心があった。
「仕方がない。当面の間、記憶が戻らないのであれば、また覚え直せばいい。それに――」
「――そうだぞ、また覚えればいいだけなのだ。私もよく忘れ物をするので怒られるが、まだ殺されたことはない」
千木良世の割り込みに力が抜ける――可愛らしいが、どこかだらしない笑顔の千木良世。
「千木良世……貴様はきちんと覚えろ。他人の手を借りることを当然とするな」
神宮司の声に小さな怒気――本当に怒っているわけではなく、注意を喚起するために教師がよく使う技術。
「はい、申し訳ございません」
ふへへと笑う千木良世――たしかに御剣さんと違って品がない――そう咎めた篁さんを思い出してしまう。
あの時、記憶を失った自分に最も配慮してくれたのは篁さんだった――それは絶対に忘れてはいけないことだ。
だが――目眩がする――骨と髪を踏みしめてしまった不快な感触――忘れられるはずもない。
「戦術機とは火力で戦車に劣り、速力では航空機に劣る戦闘兵器である」
大型モニターの画像が切り替わる――その意味を噛みしめるかのような神宮司の口調。
諸元表が表示される――戦車との比較――同じ120mm砲でも戦術機の突撃砲は短砲身であり、戦車砲よりも威力が弱い。
航空機との比較――現在までに音速を超える戦術機は開発されていない――速度勝負では比べ物にならない。
神宮司の解説が続いた。
「正面から戦車と撃ち合えば前面投影面積が大きい戦術機は圧倒的に不利だ。射程も戦車砲の方が長い。航空機と対峙しても同様だ。速力で引き離され、遠距離から誘導弾で攻撃されれば、それでお終いだ」
現行兵器と正面から戦った場合、余程の工夫がなければ戦術機に勝機はない――神宮司はそう言い切った。
「――だが、戦術機は戦車にはできない立体機動が可能な兵器だ。また航空機には不可能な戦場駐留が可能な兵器でもある。この能力は敵の拠点であるハイヴ攻略時に必要とされる」
戦車に劣り、航空機に及ばない戦術機が何故使用されているのか――その理由が開示されていく。
「元来、戦術機は地下茎へ侵入することを目的として開発された兵器だ」
地下茎構造の概念図を回想――全高20m近くの人型兵器が地下の道を行く様子を連想――本当に可能なのだろうか。
「この巨大な蟻の巣の中に……」
「そうだ。地下茎を通過し、最深部に鎮座する反応炉を確保する――これが戦術機に与えられた使命だ」
反応炉――手元の資料に記述があったはず――該当ページを発見――G元素を生産する最重要施設と記されている――G元素?
「これは戦車、航空機には絶対に不可能な任務だ。――だからこそ現在、戦術機は世界各国で生産されている。我が国では光菱が。米国ではゼネラルダイノミクス。欧州ではユーロファイタスが。各地に生産拠点を構築している。これはいわゆる東側陣営でも同じ構図だ。ロシアではイルクーツク。中国では中国陸戦兵器工業が関係国に支社を設立している」
「国内にハイヴがない国でもですか?」
「そのとおりだ。――現在、ハイヴがどのようにして出現するか、人類には理解できていない。よって、これからどの国にハイヴが出現するか予想できない。であれば――」
戦術機を配備するのは当然――神宮司の顔がそう語っていた。
「無論、兵器として戦術機はかなり高額だ。これは新技術や新素材がふんだんに投入されているため、仕方のない現実だ。だから生産、配備可能な国は限られてしまっている」
日本はそのひとつ――日本が陥落してしまえば、人類はより追い詰められることになると神宮司は付け足した。
「戦術機の生産数は少なく、操作技術の習得も困難だ。戦術機の操縦とはF1のエンジンを積んだ一輪車で算盤をしながら4回転ジャンプをすると言った者がいるくらいだ。――だからこそ、戦術機を駆る者――衛士の存在意義は大きい」
確かにそうかもしれない――後席に搭乗していたので自分で操縦したわけではないが、あのストップ・アンド・ゴーを繰り返しながら、立体的に機動するのは容易ではないだろう。
「{{firstName}}、記憶を失う前の貴様は良い衛士だった。部隊指揮能力に突出した才能を見せ、その特性を買われ、管理官に昇進したばかりだったのだがな……」
そこで負傷して記憶を失った――上層部の期待を裏切ったのは間違いないと認識できた。
「質問があるのですが……イモータルズとはどういった組織なのでしょうか? 民間軍事会社だということは聞いています。ただ、自分がどうして軍人になったのかとか、どうやって生活していたのかが思い出せなくて……」
そもそも軍人を志望するような人間だったのだろうか――そこからして理解しにくい――自分はもっと違う志向の持ち主だったのではないだろうか――記憶もないのに、そんな気がしていた。
神宮司は小さくうなづくと説明を再開した。
「貴様が聞かされていたとおり、イモータルズとはPMC、つまり民間軍事会社だ」
モニター映像がイモータルズのコーポレートロゴに変化。
「諸々の政治事情により、日本が他国に軍を派遣するには難しい問題が山積している。――これは理解できるか?」
「帝国主義の時代があったからですよね?」
「そうだ。日本は周辺諸国から警戒されており、その状況を鑑みて日本政府は海外派兵に慎重にならざるを得なかった。その習慣は長く続き、たとえ、それが対人類ではなく、BETAの掃討であろうとも同じことだった」
第二次世界大戦後の東西冷戦――その代理戦争の紛争地としての朝鮮半島――東南アジアでも戦争は長く続いた。
民意や歴史を考慮すれば動きが取れないのも当然のように思えた。
「だがBETA禍が拡大すると欧米を中心とした諸外国から日本への派兵圧力も強くなっていった」
一方は軍隊を派遣するなと言い、一方では派遣しろと言われる――日本はどちらかを選択しなければならない状況に追い込まれていったのだろうと推測。
「そこで我が国の財閥系某企業が海外の企業と共同で民間軍事会社を設立した。それが民間軍事会社イモータルズだ」
「つまり……公的には軍隊を派遣できない。だから日本政府が日本主体の民間軍事会社に派兵を依頼したというわけですか?」
「そうなる。諸々の事情を鑑み、国防隊の海外派遣は行わない。だが国際社会の要求に答えるため、米国の斡旋する民間軍事会社を使役する。細かい話にはなるが、日本に主体を置く米国企業というのが我が社の立ち位置だ」
「民間軍事会社が日本の会社だと問題になるのですか?」
「なるかもしれないし、ならないかもしれない。――ただ、あの時は問題が長期化するのを避けなくてはならなかった。それがために海外の企業を巻き込んで、ガワを整えたということだ。そして名目上、外資系企業であるため、法規制の網を掻い潜ることが可能となった」
国会論争が長期化してしまったら、国家として動けない――ならば米国の傭兵会社に報酬を約束し、国際社会の中の役割を果たす――裏技のような策略――法案が通った後で派兵反対派が絡繰に気づいたとしても遅い――その時にはすでに日本人主体の企業が日本人傭兵を戦地に派遣しているという状態になるわけだ。
「頭がいいというかズルいというか……」
「そのとおりだな」
神宮司が笑った――そして真顔になって言った。
「もう少し詳しく話そう――元々、我が社の母体は某大学の研究室と連携した医療系企業だった。再生医療を専門としており、多くの特許を取得していた。その後、財閥系企業から出資を受けて事業規模を拡大することになった。再生医療の最大の大口顧客は米国――というより米軍だった。当時、複数の紛争に首を突っ込んでいた米国にとって、戦場帰りの兵士の身体欠損は大きな問題となっていた。そこから米国は我が社の再生医療技術に目をつけたというわけだ。米国からの要請を受け、当時の我が社は戦場での緊急医療部門に進出した。我が社の開発した新技術によって、戦場での負傷兵の死亡率が3割以上低下した。それから我が社は戦場での医療活動を支援するために護衛として傭兵たちを直接雇用するようになった。これは我が社の特許を守るためであり、信頼の置ける傭兵が必要だった。やがて我が社は子会社として民間軍事会社を保有し、傭兵たちの生活全般を保証することにした。それからは先程述べた話につながる。ガワとしての米国民間軍事会社を欲した日本政府はうちの子会社に注目した。紆余曲折はあったものの、最終的に我が社の子会社が日本政府の依頼先となった。それから我が社は事業拡大を続け――現在に至った」
医療企業から傭兵運用会社に事業を拡大、そして戦術機を駆る一大企業に発展――話のスケールが大きすぎていまいちピンとこない。
それが顔に出てしまったのか、神宮司が不敵に微笑んだ。
「実際、貴様の両脚は疑似生体、もしくは人工生体と呼ばれる技術で再生されたが、その関連特許をすべて有しているのは我々の親会社ということだ」
「自分の脚も……」
切断したと千木良世から聞いていた。
実際、接続したとされる場所の皮膚にうっすらと傷が残っている――だが、両脚に問題はなく、それほど筋力が落ちたとも思えない――完璧な再生だ。
「我が社は技術的に最先端をいっている。安心して治療に専念してくれ」
神宮司が言い終わると同時に部屋の内線が鳴る――呼び出しを受けたと、講義を切り上げた神宮司は鞄を抱えて出ていき、会議室には千木良世と自分だけが残された。
「さて、そろそろ昼だ。PXにて食事としよう。――美味いメニューは覚えているか?」
覚えていないと答えると千木良世は嬉しそうに笑った。
「では、今日から第七回食べ比べグランプリを開始しよう。前回優勝のザンギ定食を超えるものが出てくるといいな」
どうやら自分は唐揚げを好んでいたらしい――まるで子ども舌のようだなと思い苦笑した。