0-7. 現実世界 生き様と死に様

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『――では残置されていた民間人の所在は判明しているのですね?』
通信ウィンドウにはソードダンサー/御剣みつるぎ――極めて冷静、動揺なし。
『――そうだ。生存者はふたり。場所は町田市旭町――』
神宮司じんぐうじ まりもは住所をはっきりと告げた。
「町田か……」
前席で千木良世ちぎらせが呟いた――ここから直線距離で20キロ超はある。
戦術機ならば遠くはない――だが、BETA群が点在する戦場を踏破しなければならない。
『――時間がありません。救助に向かいましょう』
ホワイトファング/たかむら――使命感の強さゆえか、やや猛っているように見えた。
『――待ちなって! 今から行ったって、着いた頃には死んでるかもしれねぇだろうが!』
スノウホワイト/朱土岐あかときの抗議――人情はないが正論ではあると思った。
『――あのな、避難船は出航したんだぜ? 国防隊は任務を終えた! 仕事は終わりなんだよ、終わり!』
数分前に避難民を回収した避難船は横浜を離れ、太平洋洋上へと向かった。
本土から2~30キロも離れれば、地球の丸みに船体を隠すことができる――つまり光線レーザー級による狙撃は不可能になる。
そこまで離れてから北上し、東北地方の港に入る予定だ。
間もなく光線レーザー照射圏離脱を知らせる報告が届く――それを受ければイモータルズも任務を終えることができる――そうなっていたのだ。
だが、このタイミングで新たな不法居留民発見の報せ――朱土岐あかときが荒れるのはわからないでもなかった。
『――傭兵でもリスクが高すぎる要請は断ることが可能だったはずだぜ? 国防隊の支援もないんだろ? 4機の戦術機でBETAの勢力下に進入して救出とかハリウッド映画じゃねぇんだからよ!』
英雄願望で頭沸いてんのかよ――朱土岐あかときが吐き捨てた――白い肌が紅潮している。
『――見落としは我々のミスだ。尻拭いをするのは当然であろう』
たかむらは避難民の救助に拘っている――何故か焦っている印象を受けた。
『――あのな……たかだか、ふたりのために戦術機を危険に晒していいと思ってんのか? こいつには数百億の金が掛かってんだぞ!』
1機数百億円の製造コスト――操縦者である衛士の育成を考えれば、もっと予算が掛かっているのは間違いない事実だ。
救出作戦を強行すれば戦術機が撃墜される可能性はある――それは果たしてふたりの人間を救出するのに見合うリスクなのだろうか。
通信ウィンドウ内のたかむら――厳しい表情。
『――軍人が民間人を見捨てるなどあってはならぬことだ』
舌打ち――朱土岐あかとき
『――おぅおぅ、格好つけちゃって……おまえ、バカだろ?』
頑なな態度を崩さないたかむらと心底軽蔑したという表情の朱土岐あかとき
口を挟むべきだろうか――では、どちら側の立場として――自分の中で結論を出せていないことを自覚して沈黙する。
たかむら朱土岐あかときに正視されて息が詰まる――管制ユニット内のカメラ配置の都合、衛士たちの顔は正面からのものになるのだ。
確かに私は愚かかもしれないな――たかむらが口を開いた。
『――貴様にそう言われることについては納得するよ。……だが馬鹿者と呼ばれてもかまわないが卑怯者とは呼ばれたくない』
『――てめぇ……』
緊張感が高まる――敵味方識別装置があるので同士討ちはない――それでも背中に冷たいものが走る。
『――ソードダンサーよりCP。これは日本政府からの正式な要請ですか?』
御剣みつるぎが本部との会話を再開――沈黙を守っていた神宮司じんぐうじが応えた。
『――そうなる。ただし、現場が作戦遂行不可能と判断した場合、我々が再検討する。その結果、我々も無理だと判断した場合、正式に日本政府に作戦実施不可能と返答することになっている』
『――政府要請を拒否した場合、我が社の立場はどうなるのでしょうか?』
『――それは諸君が考えるべきことではない。実行可能かどうか、指揮所にいてはわからない肌感覚を伝えて欲しい』
神宮司じんぐうじはそれ以上、口を開かなかった。
「どうなるのだろうな……。契約解消……倒産……無職……貧乏……。ヤバいな……ご飯が食べられなくなるのは困る……」
前席の千木良世ちぎらせが呟く――どこか他人事のように見えて、少し腹が立った。だから――。
「……千木良世ちぎらせさんはどうしたいですか?」
意地悪な質問だ――見殺しにするといえば人でなし呼ばわり――助けに行くといえば夢想家扱い――こんな質問、するべきでなかったと即座に反省した。
「……私が隊長ならとりあえず行ってみるだろうな」
平然と千木良世ちぎらせは答えた。
「……朱土岐あかときさんの言うとおり、リスクはかなり高いですよ?」
「行ってみて無理なら引き返す。行ってみたらリスクに見合うだけのリターンもあるかもしれないではないか?」
「リスクにあったリターン……」
妙に胸がざわつく――いずれにせよ、と千木良世ちぎらせは続けた。
「はっきりしてるのは、やろうとしなければ何もわからないということだけだ」
その言葉はすとんと腑に落ちた。
そうか、そのとおりだ――行ってみなければわからない――それは紛れもない真実だ。
『――さて、本来であればこのような事態が発生した場合、我々は管理官の指示に従うという契約になっているのだが……』
「……すみません。まだいろいろと曖昧なままで……」
御剣みつるぎに話を振られて小さく動揺してしまった。
『――ふふ、わかっている。戯言を言ってみたまでだ』
珍しいことに御剣みつるぎが微笑んでいた。
『――ドーンパープル、管理官を殴ってみろよ、ショックで治るかもしれねーし! ――最悪死んでも構わないし』
冗談めかしているが瞳の色が冷たい――スノウホワイト/朱土岐あかときに若干の苦手意識。
『――やめておけ、壊れたテレビでもあるまいし、そう簡単に記憶が戻るとは思えぬ』
答えたのは御剣みつるぎだった――それから決断の時だなと彼女は呟いた。
決断――御剣みつるぎさんが判断する――その結果にも責任を持つことになる。
自分の記憶は戻っておらず、判断を下すには難しい状態――その状況を自分は言い訳に使っているのではないだろうか。
『――私の意見は最後にするが、とりあえず皆の意見を聞きたい』
『多数決で決めるって冗談だよな? ――あたしの機体の損傷は軽くはないし、あたしは行きたくない』
朱土岐あかときが吐き捨てた。
『――私の意見は変わらない。救助すべきだと思う』
たかむらの意思は固い。
御剣みつるぎ千木良世ちぎらせに発言を促す。
「とりあえず行ってみる。駄目なら途中で諦める。以上」
行き当たりばったりじゃねーかと朱土岐あかときが愚痴る――どうにも朱土岐あかとき千木良世ちぎらせの馬は合わないらしい。
救助がたかむら千木良世ちぎらせ
放置が朱土岐あかとき――御剣みつるぎが放置に賛成すれば意見は同数で割れることになる。
『――それでは最後に私の意見だが……そこで死にたいというのであれば死なせてやるべきだ。そして彼らが生きたいというのであれば助けに行くべきだと思う』
要救助者の意思に沿う――それが御剣みつるぎの考え。
なぜ御剣みつるぎたかむら朱土岐あかとき千木良世ちぎらせの四人がチームを組んでいるのか――誰の配慮かは不明だが、なぜそうしたのか理解できたような気がした。
リスクとリターンのバランスを説く朱土岐あかとき 真白ましろ
人としての理想に可能な限り近づかんとするたかむら 唯依ゆい
状況を認識することを最優先とする千木良世ちぎらせ 紫宵よい
対象の意思を把握しようとする御剣みつるぎ 冥夜めいや
世の中に明確な答えなどない――状況は常に灰色であり、白でも黒でもない――そして灰色の世界を切り裂く一振りの剣など、どこにも存在しない。
だからこそ考え方の異なる四人を集めて小隊を作ったのではないか――そこにどのような形で自分が加わっていたのかはわからないが――。
無線接続音――黙って聞いていた神宮司じんぐうじの通信ウィンドウに発言を示すマイクマーク。
『――対象は救助を求めてきている。下の子だけでも助けて欲しいとな』
なるほどと御剣みつるぎは呟いた。
『――では私は作戦実行に賛成します』
『――ガキどもの我儘を許すってのか? あんだけ呼びかけたのに反応しなかったんだぞ!? あいつら、あたしら近くにいた時は黙って隠れてたんだ! それがいまになってビビって助けを求めてる! どんだけ甘やかすつもりなんだよ!?』
すかさず朱土岐あかときが異議を唱える。
『――そう決めつけるでない。呼びかけが届かなかったやもしれぬ。――これで3対1だ。救助作戦は決行する』
『――クソッ!!』
コンソールを叩く音――朱土岐あかときが管制ユニット内で暴れたのだろう。
『――ただし我らは傭兵だ。あくまでも規約の範疇ではあるが、作戦からの離脱も認められている。――どうする、スノウホワイト?』
作戦からの離脱が認められている――そんなのあり得るのか――イモータルズは意外とホワイトな企業なのかもしれないと思った。
『――は!? 離脱が認められてるだって? ――一生掛かっても払いきれない違約金を払えば離脱していいっていうアレのことか!? ――あんなの名目だけの項目だろうが!』
命令違反は認める――ただし多額の違約金が必要。
なるほどと納得――イモータルズは見事なブラック企業だ。
『――ふふ、では違約金を払うつもりはないということだな?』
『――誰が払うかよ、金ねーんだし! クソが!』
朱土岐あかときは心底腹が立ったという表情を隠さない――規約に対して大きな不満を抱いている――では何故そんな契約を結んだのだろうと疑問を抱く。
作戦が終わったら皆に質問しなければならないことが多すぎる。
『――では付き合って貰うぞ。――諸君、これより我々は避難民回収作戦を再開する』
ソードダンサーが令を下すと了解という言葉が続いた。

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