0-10. 現実世界 不死者

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「あ……あぁ……」
眼前に拡がる惨状に吐息が漏れた。
かつてたかむらさんだったものの質量は激減していた。
髪と肉と血と強化装備――それらが散逸してしまったからではない――兵士ソルジャー級の腹の中に――嘔吐感。
脂汗――喉元まで上がってきた吐瀉物を必死になって飲み込む。
自分のせいだ――自分の判断ミスが、この悲劇の原因だ。
記憶もないのに出しゃばった結果がこれだ――あの時、自分も一緒に降機すべきだった。
自分がたかむらさんと行動を共にしていれば、彼女は助かったかもしれない。
それなのに何故、自分はその考えに至らなかったのだ。
不知火しらぬいの足元にいた兵士ソルジャー級が消えた――千木良世ちぎらせによる長刀での斬り払い。
次々と弾き飛ばされていく兵士ソルジャー級――剥がされた屋根の下にいた4体すべてを掃除――だがたかむらさんはもう戻らない。
尊敬すべき人――もっと会話がしたかった――それなのに自分の判断ミスによって、その機会は永久に失われた。
「まだだ、管理官! まだ避難民が見つかっていない!」
避難民――こどもがふたり――たかむら唯依ゆいが探していた。
「ホワイトファングが見つけたと言っていたのだ! ならば絶対にいる! でなければ彼女が死ぬはずがない!!」
脳が熱くなる――そうだ、絶対に見つけなければ――兵士ソルジャー級の注意を逸らす必要があった――そのために死を――。
「――周辺の掃討をお願いします! 自分が降機します!」
拳銃を取り出す――どこにあるかは体が覚えていた。
『――何言ってんだ、馬鹿野郎!』
途端に飛び込む朱土岐あかときの怒声。
『――降りたって無意味だ! 全員、死んでる!!』
「ホワイトファングを回収しなければなりません」
『――もう死んでんだよ! 死体なんざ集めても無意味だろうが!』
「わかってますよ、そんなこと! ――でもたかむらさんの見つけた子どもたちと形見を……!」
死体を全部かき集めるのは不可能だろう――だがたかむらさんの髪の一房だけでも遺族に届けてやるべきだと思った。
でなければ――あまりにも報われない。
『――死ねバカ! 死んじまえ!』
口論している間に降機の準備が終わった。
千木良世ちぎらせさん、降ろしてください!」
管制ユニットを開放すれば乗降用ワイヤが使える――その記憶はある。
振り返った千木良世ちぎらせが自分を見詰めていた――視線は逸らさない――何故なら自分は本気だからだ。
小さな電子音――通信ウィンドウに御剣みつるぎさんが表示された――千木良世ちぎらせさんが呼び出したらしい。
「……どうする、ソードダンサー? 私は管理官を説得する自信はないぞ。一から説明すると2時間は掛かるしな」
沈黙――溜息。
『――降ろすがよい。降機後の捜索時間は5分を上限とする』
ソードダンサー/御剣みつるぎの許可と同時に管制ユニットが開放――素早く乗降用ワイヤを掴み、約10m下へ降下。
着地と同時に拳銃を構えて捜索を開始した。
探せ――見つけたと彼女が言ったのだ――必ずここにいるはず――疑ってはならない。
コンクリート片、折れた柱、割れたフローリング――姿勢を低くして捜索を続ける――どこかの隙間に隠れているはず。
「出てきてください! 早く! 今は安全ですから!!」
反応がない――四方を見渡す――瓦礫に鮮血の跡――間違いなく彼女はここで戦った。
ジャリっという足音――不意に自分が踏んでしまっていたものの正体に気づく。
肉と骨片――そして砕かれた強化装備。
泥と血液が絡んだ髪の一房――あの飾り紐。
地に落ちた山吹色の強化装備の欠片を拾おうと手を伸ばし――視線の先にコンクリート片の陰に隠れる子どもを発見した。
「見つけた! ――千木良世ちぎらせさん!!」
3m先の瓦礫の山を指差す――千木良世ちぎらせ機の主腕が大きなコンクリート片を持ち上げる。
子どもたち――抱き合っている――意識はないように見えた。
「いま行く……!」
慌てて駆け出す――次の瞬間、強烈な衝撃に襲われた。
激痛――キーンとする耳鳴り――世界の音が遠くなり、暗くなる。
吹き飛ばされたショックで拳銃を失ってしまった――涙でぼやけた視界の中で乳白色の物体が蠢いている。
殴られたのだと理解――耐衝撃機能のある強化装備を着込んでいてこれだけの痛み――生身であれば即死していた。
全身が痺れている。
管理官、拳銃を探せ――誰かが自分の名前を呼んだ気がした。
あぁ――世界から分断されていく。
それはとてもとても残念なことだと思った。

2023年7月11日――自分は世界から断絶された。

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